それは、何の前触れもなく突然やって来た。
昨日の夕方。
扇風機が壊れた。
タワーファンなる、スリムなアイツだ。
厳密に言うと…機能のひとつが壊れた。
風は絶好調に吹いている。
強弱だってお手のもの。
上下だのリズムだの…なんだかそこら辺は、いまだバリバリの現役で絶好調なのである。
そう…まさかの首振り機能…
そこだけはぁぁぁーーーー!
扇風機から風と首振りを取ったら何が残るってのさ?
リモコンも本体も、ピッピコ音をならしながら、「こっちを向いて~」と話しかけてくれている。
でも、ヤツはすっかり拗ねてしまっていた。
横を向いたっきり…こっちを見ようともしてくれない…。
ウンでもなけりゃスンでもない。
ただひたすら、明後日の方向を見ながらファ~~~ンとため息をつき続けている。
あたしってば…何か悪いことしたからしら?
これと言って思い当たる節はない。
強いて言うなら、1週間ほど前にキレイに掃除をしてやった。
少々荒っぽっかったのかしら?
そんなつもりはなかったけれど…
もし、そうだったなら、その時に言って欲しかったわ。
言ってくれなきゃわからないもの…。
でも、そんなことで、拗ねるかしら?
今までだって、何度も掃除はしてやったし…。
それだっていつもと同じ。特別な何かなんてしていない…。
もう一度、リモコンに頼んでみた。
ピッピコ話しかけてくれている。
でも、ヤツは相変わらずファ~~~ンとため息をつきながら明後日の方を見ている。
本体から話しかけても…結果は同じだった。
なんなのさ。
何が気に入らないのさ?
いつまで、横を向いてるつもりなのさ?
ファ~~~ンとため息ばかりで…
なにも答えてはくれない。
ヤツの存在のデカさを改めて思い知った。
悔しいが痛感した…。
手を替え品を替え…機嫌を取ってみた。
頑固なヤツだ…。
気のせいか暑く感じてきた…。
そんなあたしのダメージなんでどこ吹く風。
エアコン彼女は我関せず。
素知らぬ顔してそよいでる…。
そう来たか…そう来るんだな…
あんた達がそう来るなら、こっちだって黙っちゃいらんないよ。あたしゃ決めたよ。
コンビ解散だ!
新しい相方を招き入れようじゃないか。
拗ねたアイツに退場を命じよう。
ただし!明日の朝までに反省して心を入れかえるのなら、こっちにも考える余地はある。
そして、今朝。
ヤツは相変わらず拗ねている。
明後日の方を向いてファ~~~ンとため息をつくばかり。
分かったよ…。
もういい…。
あんたの気持ちは…良くわかった…。
あたしだってヒトの子さ。
あんたの望みを叶えてやろうじゃないか。
午後2時。
颯爽と新しい相方がやって来た。
精悍な佇まい。ピカピカと輝くオーラ。
スカしてるけどイカしたヤローだ。
身支度を整えるなり、エアコン彼女とコンビ始動!
それはまるで…お互いに前から知っていたかの様な絶妙な呼吸…。
ヤツはピッと小さく呟き、静かにリビングを後にした…。
腹を立てたりして。すまなかったわ…。
あたしってば…大人気なかったねぇ…。
あんた。疲れたんだろう?
気付いてやれなくて…すまなかったねぇ。
今まで…ありがとねぇ。
本当に本当に良くやってくれたよ…。
ピッ。
ヤツはまた、ファ~~~~ンと大きなため息をついた。
新天地でも明後日の方向を見つめていた…。