学校からのお知らせに「就学時健診(半日授業)」とあった。
あぁ~もうそんな時期か…。
コゾーさんの就学時健診を思い出した。
遡ること2年前。
健診を受けるべく、学校に向かった。
地域では比較的大きい学校。既に長蛇の列。
こりゃ~時間かかるなぁ~と覚悟を決めた。
視力や聴力検査はまともに答えられるだろうか?
最後まで言われた通りにできるだろうか?
なんせ、コゾーさんである。
一抹の不安を感じつつも、学校側は慣れてるだろうし…
まぁ~なんとかなるかな…。
そんな事を思っていた。
最初は簡易知能検査だった。
コゾーさんのグループが呼ばれた。
健診項目の書かれたチェック表を手に持たせ見送った。
親は待機である。
配られていたお知らせを読み始めた。
「………くんの保護者の方いらっしゃいますか~?」
ん?
ウチ???
もう1度同じ呼び掛け…今度はよく聞いた。
ウチだ。
なになになになによ~
のっけから何やらかしたのさぁ~
慣れない場所で慣れない状況…
返事をしてイソイソと声の主の元へ。
「チェック表お持ちですか?」
「子供に持たせましたけど…?」
「それが「もらってない」って言って持っていないんです」
コメカミでピキピキと音が聞こえた。
コゾーめ!どこにやった!
「えっ!?縦長の健診項目が書いてある紙ですよね?」
「はい。その用紙です…」
すると、向こうから大きな声で
「◯◯せんせーありましたー!ここにおいてありましたー」と。
「あったみたいです。お騒がせしました」と笑顔でその先生は去っていった。
ん?
今なんつった?
ここに置いてありました…???
ここって…
そこ?
検査室への移動前に整列していた場所である。
まぁ、置き忘れてしまった。
って事については…「大目に見てやろう」
うん。よかろう。
かーちゃん歯ぁ~食い縛っちゃうけどね~。
もらってない???
もらってないだとぉ~!?
コゾーさんよぉ~。
何となく周囲の視線を感じつつ、元の席に戻った。
「お宅のお子さんのせいで余計な時間が掛かってるわッ」
と言われている気がしてならなかった…。
その後はそれなりに順調に進んだ。
心配した視力検査も聴力検査もなんとか無事に終わった。
医師の健診は待ち時間が長く…周りもみんな待ちくたびれているようだった…。
同じ保育園のお母さんに会えたので、他愛ない話をしながら待っていた。そうこうしているうちに順番が回ってきて、これらも何とか無事に終わった。
ぐはぁ~。やっと終わった~。
お疲れさん!帰ろう!
とコゾーさんと出口に向かった。
件のチェック表を提出すれば無罪放免。
シャバに戻れるぜ。
足取りも軽やかに、係の先生にチェック表を渡した。
もう、終わったも同然。
チェック表のチェックが終るのを待っていた。
余裕寂々…のハズだった…
「あの、チョッとお時間よろしいですか?」
「はい?何か受け忘れてますか?」
「いや、健診は全て受けられてます。この後お時間大丈夫なようでしたら、少しお話しをさせて頂ければと…」
話?なんの話よ?
だはぁッ。これって…。
ねぇ。これって…。
えーー。
今?
今から!?
今のこのタイミングで!?
そう言うことね…。
コゾーさんってば見事にロックオンされた…。
「あちらの部屋に…」と案内されながら頭の中はフル回転。
体じゃないね。アタマだね。アタマ…。
確信めいた、意味不明な自信。
そりゃそーだよね~。
そーなるわなぁ~。
まぁ~遅かれ早かれだろうしなぁ~。
ビバ!ロックオン!!
されちまったもんは仕方ねー。
行くぜ!!相棒!!
妙に肝が据わったあたしと、ザワザワ落ち着かないあたしと、疲れた…。帰りたい…。と釈放を切に願うあたし…。
最終的には
まぁ~。なるようにしかならねーな。
と、いつもの開き直り(笑)に落ち着いていた。
そんな母の気も知らず「金魚いたよ~」とのんきなコゾーさん。
ヤレヤレ…。
何のショックもなかった訳ではない。
長時間の健診から、やっと釈放!
と言う絶妙なタイミング。
そこへ持ってきて、ご丁寧にも学校側からのお声かけ…。
その衝撃と破壊力の凄まじさったらない。
正直、覚悟はしていた。
怪しいかもなぁ~と。
だもんで、常日頃から保育園の先生、たまに食事に行く数少ない気心知れたママ友やあたしの友達とも話をしていた。
皆さん口を揃えて「それはキャラ!」
キャラ以外のナニモノでもない!
と言い張るのである。
仕舞いにゃヤッコさんから、その「キャラ」を取ったらなにも残らない。
とまで言われる始末…。
非常にデリケートな問題だ。
実の親に直接「そうだね~おかしいよね~」
と言う人は中々いないだろう。
これもまた「キャラ」なのだろうか?
「遠慮はいらない。ハッキリ、キッパリ、率直に言っちゃって。」
と言うあたしに「何の遠慮もしてない。したところで気づくでしょ?」と。
何ともはや…だ。
あたしは、その手の事については、何とも思っちゃいない。
むしろ、何か問題があるなら、とぉりゃー!と適切な方向にとっとと全てを切り替えたいのだ。
単純明快。それ以外の理由はない。
一人っ子なもんで、比較する対象もいない。
周囲の…と言っても、時々会う友達の子やら、同じ保育園の仲間位しか直接ふれあう子供もいない…。
だもんで、時々ご意見お伺いをしていたと言うわけだ。
ほとんど待つことなく案内されたのは、
併設の「特別支援学級」の教室だった。
担当の先生が出迎えてくれた。
何とも穏やかな口調で「お疲れの所お呼びとめして…」と話が始まった。
それは、とてもとても丁寧で、隅々まで配慮がいきとどいていた。
お子さまの普段の様子で何か気になることは…ウンタラカンタラ…
小学校は保育園と…ウンタラカンタラ…
色々なサポート体制が…ウンタラカンタラ…
はい。はい。と相槌を打ちながらも…
先生よぉ~。
気持ちは本当にありがーてし、今の時代、迂闊なことは言えねぇって事くらい、コチトラ良く解ってるぜー。
だけどよぉ。
あたしにゃ遠慮はいらねー。
サクッと行こうぜー。
サクッとよぉ。
先生の言いてーことはよぉ。
5分もいらねー話だぜ。
心の中だけで思っていたつもりだったのだが…
気づけば話をブチ切っていた…
「あのぉ~先生。つまり、入学前に1度検査を受けた方が良いと思う。と言うことですよね?」
「強制ではないんです。お母さんがご希望されるのであれば…と言う…」
「分かりました。検査受けます。それで、先生…」失礼を詫びる前置きをして…
「今回のこのお話についてクレームを入れたりしません。検査の結果がどうであれ、検査後についても同じです。
どうもこうもありません。親としては、この子の特性に合わせた適切な対応を希望します。
先生のお話しを伺って心強く思っていますし、これだけの人数の中で、気にかけて下さっただけで感謝しています。
ですので、出来れば、シンプル、ストレートにお話しを進めて頂ければ助かるのですが…。」
「あぁそうですか、では、いくつか方法があるのですが…」
畳み掛けるあたしに…若干驚いた様子の先生…
あぁ。
またやっちまった…。
あーあー。
またやっちまった……。
最後にもう一度、失礼を詫び、お礼を言った。
やっとこ釈放された。
夕焼けが何ともキレイだった。
収監から4時間以上経っていた…。